母の贈り物

向田邦子生誕八十年記念番組「母の贈り物

昭和50年、秋。 結婚式を翌日に控えた秋子(清水由紀)と正明(中丸雄一)の前に、 死んだはずの秋子の母、 伸江(萬田久子)が突然現れる。 伸江は夫と死別後、 妻子ある男性(佐藤B作)と駆け落ちし、 以来母と娘の交流はなく、 秋子は母は死んだと嘘をついていたのだ。

一方、正明の母のフミ子(竹下景子)は夫と死別してから一人で正明を育て上げた。 秋子は、正明も堅物のおふくろと呼ぶフミ子と違い奔放に人生を送っている伸江を恥じ、 本当のことを話しそびれていた。 正明は伸江を自宅に夕食に誘い、 秋子は仕方なく伸江をフミ子に会わせる。

そこへ水道屋の石田(石坂浩二)が修理に来る。 そして実は竹田がフミ子の長年の恋人だったことがわかり……。

最初、若い二人の話し方や所作が昭和っぽくなくて、 ちょっと違和感があったが、 原作と脚本が良く練れていてぐいぐい引き込まれていった。

秋子もフミ子も、 床に置いてあるものに何度も蹴躓いていたけど、 これは正明が、 母と似たところのある秋子に惚れ込んだという、 マザコンフラグなのだろうか。

それとフミ子が恋する竹田の役が石坂浩二というのは、 いい男すぎて興ざめ。 女房が中学校の同窓会に行くと言って出て行ったきり戻ってこないという設定なんだよね。 まあ、ちょっと情けない男という芝居はびしびし伝わってきたけど。 でも萬田久子に対して佐藤B作なんだから、 斉藤暁くらいを持ってきてほしかったな。 ちょっと若いかもしれないか? とはいえ実年齢では竹下景子と(公式で)一歳しか違わないし、 役柄としても、 正明が早稲田大学を卒業して数年経ち、 営業としてばりばり働いているという設定だから、 五十代でちょうどいいと思う。

あ、でも設定としてはタッパも少し足りないか。 石坂浩二がちょっと背を伸ばして時計のねじを巻く重要なシーンがあるのだけれど、 それでは斉藤暁だと絵にならないかもしれない。 石坂浩二 177cm に対し斉藤暁 165cm だ。 身長 157cm の竹下景子演ずるフミ子が、 あたしだと踏み台を使わないとねじを巻けないから、 竹田さんに代わりに巻いてもらってるなんてことを言ってるし。

時計と言えば、 秋子の引っ越しの荷物の中に子供の頃から使っている目覚まし時計が出てきて人生を感じさせる。 そして正明の家では、 柱時計のねじを竹田がことあるごとに巻いていた。 それを知らされて正明はショックを受ける。 竹田が自分の家を実質的に支配していたことに気づくからだろうか。

時代が昭和50年ということで、 フミ子が給食のおばさんをやっている小学校 (そう昔は小学校ごとに給食室という調理場があった) の子供が、 加藤茶のちょっとだけよとか、 ユリ・ゲラーのスプーン曲げをしていたり、 秋子の職場に脈絡もなく紅茶キノコが出てきたりしてたけど、 ちょっと取って付けた感があったな。 ちょっとだけよなんか見たことも聞いたこともないだろうから、 演じていた子役は苦労しただろう。 でも正明がふてくされてテレビを見ているシーンで、 テレビに「寺内貫太郎一家2」が映し出されていて小林亜星が暴れていたのにはにやりとした。 寺内貫太郎一家向田邦子が脚本を担当していたんだよね。

秋子の住んでいるアパートの外観も、 まあ本当に当時にあったような造りで、 くたびれ方もちょうど良さげな感じだったので、 よくぞ見つけてきたもんだなと感心した。 だけどどうやらこれもセットで作ったらしい。 すごいこだわりと制作費だなと思った。 さすがは石井ふく子プロデューサ。

演技もカット割りなんかでごまかさずに、 長回しで撮ったんじゃないかなんて緊張感が伝わってくる場面が多かった。 稽古量も半端無かっただろう。

しかし公式サイトに 正明役の TAT-TUN の中丸雄一の写真が一枚も掲載されていないのは、 やっぱりジャニーズ事務所から許可が下りなかったのかしらん。 番組宣材の集合写真でも顔だけ微妙な絵になってるし。

あと、ちょっとしか出てこないけど、 竹田行きつけのバー、チャランケのマスター役で出てきた、 早いのが取り柄岡本信人君(©はかま満緒)が怪演していたのがよかったな。 それに秋子の上司役で沢田雅美がちょいと出ていたし、 昭和のドラマって感じがさらに深まっていた。 (二人は肝っ玉母さんやありがとうで共演している。)